縦乗りのメカニズム
これまでに御紹介した
用語の定義
縦乗りのメカニズムを説明するためにはまずそれを説明する為の用語を適切に定義する必要があります。
- 最初に聞いた音が1拍目表に聴こえる病とその症状 ─── 縦乗りを克服しようシリーズその36
- スイング理論 ─── 縦乗りを克服しようシリーズその38
- オンビート・スリップストリームについて ─── 縦乗りを克服しようシリーズその39
この3つの記事で説明されている用語を元に原理を説明致します。
縦乗りと横乗りの本質的な違い要約
縦乗りの本質はモーラ拍リズムが持つリズム認識方法にあります。
日本語→1音節が頭子音と母音の2音、または母音のみ。リズムは必ず2^n になる。音節の先頭自体を音節の先頭だと思っている→縦乗り
英語→1音節が常に頭子音と母音と末子音の3音。リズムは必ず3^nになる。音節の先頭を母音と感じており、子音はその間に漂う不定期なものと考えている。→横乗り
日本語と英語のリズムは、母音のみの音節の扱いに大きな違いが現れます。日本語は母音と子音を区別しないため、音節内に母音しかないと母音位置が子音位置を追い越して前進します。このことを
しかし英語のリズムは子音と母音を区別するため音節内に母音しかなくても母音の位置は常に一定になります。このことを音節核の当時性と言います。
これがアメリカ人の弱拍の認識に反映され、弱拍は強拍より前に入る装飾音として認識されています。これは弱拍を子音、強拍を母音とするアナロジーとして認識している事を表しています。
しかし日本語は子音と母音を区別しないためこの習慣がありません。それらは飽くまでも2つの連続する音節として認識されます。つまり日本人はこの『先行する弱拍』を認識する事が出来ません。
これはつまり、日本人には『弱拍』と言う概念自体が存在しない事を表しています。日本人にとっての弱拍はあくまでも連続する2つの拍でしかありません。 弱拍の本質は時間の分割にあります。この時間を分割すると言う概念自体が言語上に備わっていません。
この認識の違いが実際に日本人がジャズを演奏する時に起こります。日本人はこの先行する弱拍を聞くと、そこが2つの連続する拍の先頭だと間違って認識してしまい、小節位置の認識がずれてしまうのです。これは日本語で母音しかない音節の時に母音位置が子音位置を追い抜かして移動する事に呼応しています。
この事を「オンビートスリップストリーム」と呼びます。
これは日本人がレイドバックを理解出来ない事をも説明することができます。
英語は子音が非常に長い言語として知られています。リンキングで接続した末子音をも含めると5重6重の子音が現れます。すると末子音の最後の子音が当時性を持ち母音がやや遅れるのです。
この習慣が音楽に反映されると、弱拍に複雑な修飾音を追加した上でどこでリズムを取り(当時性を確保し)強拍の位置がやや遅れた位置に現れるというレイドバックという表現手法となって現れます。
日本人がこの遅れた強拍を聞くとそこを小説の開始位置だと錯覚してしまい、間違った小節位置として認識してしまうのです。
この事を「オンビート渋滞」と呼びます。
テンポが走る、テンポがもたるという現象は、西洋音楽を演奏する日本人独特なリズムの錯覚が起こす日本人独特な現象です。
英語では母音に当時性があり子音には当時性がありません。しかし日本語では母音子音の両方に当時性があるばかりか無音にも当時性があります。この『音の入れ物』自体に当時性がある。これを
縦乗りからの脱出は、このモーラという認識の限界からの脱出のドラマなのです。
目次